司法書士は、不動産や会社の登記業務、相続業務などを扱う法律のスペシャリストです。弁護士に次ぐ法律系の難関資格とされ、その合格率の低さ、資格保有者の少なさから社会的ステータスが高い資格とされています。
【目次】
司法書士とは
司法書士の仕事内容
司法書士としての働き方
他資格との違い
ー弁護士との違い
ー行政書士との違い
司法書士の魅力
ー年収
ーワークライフバランス
ー将来性
司法書士になるには
司法書士試験について
最後に
司法書士とは簡単に言うと、
「私たちの身の回りにある法律問題を解決してくれるスペシャリスト」です。
不動産や会社の登記業務、成年後見業務、相続業務や身近にある民事事件を代理人として解決する裁判業務など、幅広い業務を取り扱い、一般市民が気軽に相談できる存在として活動しています。上記の専門業務以外にも、他の士業法で独占されない付帯的におこなうことができる業務が多数あることも特徴です。
現代の複雑な法制度のもと、世の中の多くの部分は法律の枠内で動いています。
登記の申請書類ひとつを作成するにも、いくつもの法律について正確な知識がなければ、
間違いのない書類の作成・手続きはできません。
身近な地域社会でこそ、司法書士のような正確な法知識をもつ人間が求められているのです。
司法書士は、法律に関わるさまざまな手続きをサポートします。
ここでは代表的な10の業務をご説明します。
登記とは司法書士の代表的な業務のひとつで、主に「不動産登記」と「商業登記」に分けられます。
不動産登記は、土地や建物について所有者や所在地を記録することで、社会に対し権利関係を明らかにするものです。
一方の商業登記は、会社設立の際に役員・資本金・事業内容などを記録します。
これらの記録(登記)があるからこそ、土地や家の売買、会社間取引の安全性が担保されます。
土地や建物を購入した場合、あるいは新しく会社を設立した場合に、法務局に対して登記申請という手続をしなければなりません。
この登記手続はとても煩雑であり、ミスをすると権利が損われる場合もあるため、登記の専門家・法律家である司法書士が権利者の代理として手続きを行います。
新築購入や会社設立といった人生の転機に必要となるため、司法書士は代理人として社会的に重要な役割を担っています。
2000年から、認知症や知的障害・精神障害などの理由で十分な判断ができない方の生活や財産を守るために始まった、成年後見制度。
介護サービス施設への入所や財産の管理、悪徳商法などの被害に遭った時の取消し手続きなどを、本人の代理として行うのが成年後見人です。
法律の専門家である司法書士は、この成年後見人に選出される場合が多くあります。
超高齢化が進む現代社会においては、司法書士の成年後見業務への期待も高まっていると言えるでしょう。
多重債務者とは、自己破産や個人再生など、クレジットやサラ金、商工ローンなどから借金を重ねた結果返済ができなくなった人のことを指します。
こういった問題を法律的手続に基づいて解決し、多重債務者を救済するのも司法書士の業務です。
「ヤミ金融」と呼ばれる、出資法違反の無登録業者に借金をしてしまった人の相談にも乗ることがあります。
自己整理や任意整理のように貸金業者との交渉テクニックのアドバイスや、調停申立の際に調査委員に話す内容の整理などを行います。
また、自己破産の相談ならば、書類を作成するだけでなく自己破産制度の内容を説明したり、破産後の生活を依頼者と共に考えることも業務の一つと言えるでしょう。
企業活動にまつわる法律事務が、企業法務です。
法律の専門家としての知識を活かして、取引先との契約書作成・締結や契約内容のチェック、コンプライアンスに関するアドバイスを行うほか、株主総会の実施や、株主名簿をはじめとした個人情報を管理する体制を確立し、それを実施していくといった活動が求められます。
社内外における、法律に関するさまざまな問題や課題に対応することも、司法書士の業務なのです。
依頼を受けて、裁判所、検察庁または法務局・地方法務局に提出する書類を作成します。
裁判所に提出する書類とは訴状や準備書面、検察庁に提出する書類とは告訴状等をそれぞれ指しています。
また、法務局・地方法務局に提出する書類とは、登記申請書のほか、登記原因証書となる売買契約書等のことです。
簡裁訴訟代理等関係業務を行います。
これは、簡易裁判所における訴訟手続、支払督促手続、民事保全手続、民事調停手続等を指し、簡易裁判所の事物管轄に属する事件について代理することを指します。この業務は、簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を有すると法務大臣が認定した司法書士に限って行うことができるものです。
平成14年の司法書士法改正を受け、裁判の書類作成だけでなく、簡易裁判所のみとはいえ、司法書士が訴訟当事者の代理として法廷に立つことが可能となりました。
法教育の一環としての消費者教育も司法書士の業務です。
消費者にとっては、司法の仕組みや重要さを学び、自身で考え、ルール作りに参加できる能力を養うことが求められています。
また、自己責任が前提となる現代社会では、最低限必要の法知識と法的思考力を身につけておく必要があります。
詐欺などの被害を未然に防ぐため、法律の内容や働き、司法の仕組みなどに関する学習機会を設けることは司法書士にとって重要な課題なのです。
相続による不動産の名義変更の申請、戸籍の収集、相続関係説明図の作成、遺産分割協議書の作成なども行います。
他にも、相続放棄、相続人の中に未成年者がいる場合の特別代理人の選任申立、遺産相続で争いになった場合の遺産分割調停の申立などで、家庭裁判所に提出する書類作成も業務としています。
さらに、これから遺言書の作成を考えている方からの相談を受けたり、遺言書が見つかった時の手続きである検認なども司法書士が行います。
依頼を受けて他人の財産の管理や処分を行う財産管理業務も司法書士の業務のひとつです。
相続などの際、銀行預金などの解約、株式・投資信託などの名義変更、生命保険金などの請求、不動産の任意売却などを、相続人からの委任に基づいて行うものです。
ただし、この業務は弁護士法で事件(紛争)性がないものに限られているため、司法書士が財産管理業務として依頼された後に、法的な紛争が起こることが避けられなくなった際には、業務継続ができなくなる場合もあります。
司法書士が登記申請書や裁判関係の書類を作成する場合、依頼者と法律的な判断のための相談をする必要があります。
また、相談業務は自らの事務所で行うものだけではなく、自治体や司法書士会主催の無料相談会などに出席することもあるでしょう。
相談会の内容は、登記や会社法務に関するものから、多重債務者問題、少額訴訟、悪質商法問題、敷金返還トラブル、家事事件、裁判事務関係までさまざまです。
無料相談会が多いですが、相談が進むにつれて実際の業務委託に繋がる可能性があります。依頼者の抱える問題や質問の傾向などは、実際の相談を受けてみて初めてわかるものです。この体験によって自分に不足している知識が明らかになるでしょう。
司法書士としての働き方は、主に3種類あります。
既存の司法書士事務所などに所属し、代理人として依頼人の法律業務を手がける働き方です。
独立開業を目指して、まずは事務所に所属するという方が多くいらっしゃいます。
企業の法務部門などで、自社の法律関係の業務を担当する働き方です。
勤務司法書士と異なり、当事者として法律問題を扱う面白さがあります。
自身で司法書士事務所を開業する働き方です。
専門分野に特化したり、幅広い法律業務を取り扱うなど、働き方を自由に選ぶことができます。
弁護士は実際に起こった事件やトラブルに対して、適切な対処方法・解決策をアドバイスすることが多いのに対して、登記や相続の手続を円滑に進め、権利者である依頼人の損失を予め防ぐ予防策的な業務を行うのが司法書士です。
「簡裁訴訟代理等能力認定考査」で認定を受けた司法書士のみ、弁護士と同じように裁判所で弁論したり和解交渉を行ったりすることができますが、訴訟・紛争で目的とされる金額が140万円以下の簡易裁判に限られます。
行政書士は国、地方公共団体に提出する書類を作成するのに対して、法務局、裁判所に提出する書類を本人に代わって作成するのが司法書士です。
主な行政書士の業務としては、官公庁に提出する書類の作成、依頼人に代わって書類を官公庁に提出する代理申請や依頼人が抱えるトラブルに対して法的アドバイスをする相談業務などが挙げられます。
司法書士の年収は、300万円から1,000万円以上と幅広いことが特徴です。
ですが実際には、司法書士としての働き方でご紹介した勤務形態に応じてその平均年収は様々であるため、一概に言うことができません。
日本司法書士連合会の調査によれば、司法書士の50%以上が年収500万円以上、さらに年収1,000万円を超える司法書士も20%弱いるとのことです。
(※日本司法書士会連合会「司法書士白書2017年版」54頁より)
独立開業した司法書士の方がよくおっしゃるのは、「自分が努力すればするほど、収入になって反映される」ということです。資格取得で身につけた知識は多くの方に必要とされるものなので、ご自身の工夫や熱意次第で仕事の量をコントロールすることが可能です。依頼人との信頼関係をうまく築くことが、年収を上げていくことの鍵になるといってもよいでしょう。
独立開業した場合、扱う業務の範囲や仕事量のコントロールも自分で行えるため、生活に合わせたある程度の時間調整が可能です。
そのため育児や介護などとライフバランスをとりたい方にとっても魅力的な職業といえるでしょう。
また、産休・育休などで一度仕事を離れたとしても、復帰後の人材としての価値は変わりません。そのような点でも、性別・年齢関係なく活躍できる資格といえます。
「司法書士の仕事は、将来AIに取って代わられるのではないか。」
司法書士が取り扱う業務の中には、書類作成など事務的なものが多くあるため、このような懸念を抱く方も一定数いらっしゃいます。
ですが、答えは「NO」と言ってよいでしょう。
司法書士の業務は、司法書士の仕事内容でご説明したように幅広く、その中には人間にしかできないような仕事がたくさんあります。
例えば、相続業務については、相続人間の協議の立ち合いをしたり、法律的なアドバイス・解決策の提供をするなど、書類作成以外の面で依頼人を助ける場面があります。
他にも、企業間合併や組織再編に伴い、スケジュールの作成を手助けするなど、AIが対応できないケースバイケースの業務が多くあります。
また今後の超高齢化社会において、相続業務や成年後見に関する業務はより一層拡大していくと考えられています。
以上の点から、司法書士がAIに取って代われる可能性は「限りなく0に等しい」と言ってよいでしょう。
司法書士になるまでのステップは大きく分けて3つあります。
1.司法書士試験の受験
年に1度開催されている司法書士試験を受験し、合格する必要があります。
一次の筆記試験と二次の口述試験から構成されており、例年筆記試験は7月の第1あるいは第2日曜日、口述試験は10月中旬に行われます。合格発表は例年11月初旬です。
司法書士試験の詳細は、司法書士試験についてに記載してあります。
2.新人研修の受講
試験合格後は、日本司法書士会連合会や各都道府県の司法書士会が主催する新人研修を受講する必要があります。
研修は、中央研修・ブロック研修・司法書士会研修の3つがあり、例年ほとんどの研修が12月初旬~翌年3月にかけて行われます。
3.司法書士会への登録
研修修了後は、全国にある司法書士会のいずれかに登録をする必要があります。
これで晴れて、司法書士になれます。
試験日 | 筆記試験 例年7月の第1あるいは第2日曜日 (午前の部)9:30~11:30 (午後の部)13:00~16:00 口述試験 10月中旬 |
---|---|
受験料 | 8,000円(令和2年度試験) |
出願期間 | 例年5月中旬から下旬 |
※詳細は法務省ホームページでご確認ください。
午前の部
|
午後の部
|
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形式
|
多肢択一式
|
多肢択一式
|
記述式
|
科目
|
憲法
3問
民法
20問
刑法
3問
商法
9問
|
民事訴訟法
5問
民事執行法
1問
民事保全法
1問
司法書士法
1問
供託法
3問
不動産登記法
16問
商業登記法
8問
|
不動産登記法
1問
商業登記法
1問
|
合計
35問
|
合計
35問
|
合計
2問
|
|
配点
|
105点
|
105点
|
70点
|
司法書士試験の特徴は、既定の合格点を満たす人が全員合格となる「絶対評価試験」ではなく、成績上位だった受験者の一部を合格とする「相対評価試験」であることです。
基準点を超えた人の中から、相対評価で合格点が算出されて合格者が決まります。
さらに司法書士試験の特殊な点は、筆記試験において、午前の択一式・午後の択一式・記述式、それぞれの基準点をクリアすることが必要となります。3つのうち、ひとつでも基準点に足りなければ、それだけで不合格となるのです。
口述試験は筆記試験を通過した人のみ受験することができます。
1人あたり15分程度で、例年の傾向では不動産登記法・商業登記法・司法書士法から出題されます。出題される問題は筆記試験で問われる内容の範囲内ですので、筆記試験を通過する学力があれば特別な対策はいらない場合が多いです。
受験者数
|
合格者数
|
合格率
|
|
---|---|---|---|
平成27年度
|
17,920
|
707
|
3.9%
|
平成28年度
|
16,725
|
660
|
3.9%
|
平成29年度
|
15,440
|
629
|
4.1%
|
平成30年度
|
14,387
|
621
|
4.3%
|
平成31年度
|
13,683
|
601
|
4.4%
|
例年、3~4%前後と非常に低く、難易度が高いと言われています。
しかしこれは、司法書士試験に受験資格がなく学歴も年齢も問われないため、受験者の学力が一定ではないことは原因と考えられています。そのような意味では、難易度が高いとはいえ、司法書士試験は「努力が反映されやすい試験」であると言えるでしょう。
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